ロックの女王

taros_magazine2005-08-18

いささか古い話になってしまったが、先月“LIVE 8”という音楽イベントがあった
ちょうど20年前に行われた“LIVE AID”の仕掛け人であるボブ・ゲルドフが、節目の年にイギリスに先進国の首脳が集まるG8の開催に合わせ、もう一度アフリカに目を向けさせようとしたものだ
「あれから20年かぁ…」
自分のトシを棚にあげ、出演しているミュージシャンの変貌ぶりに一喜一憂テレビ中継を見ていた
歌ってる最中に舞台のカゲに引っ込み、水を飲んでた(?)イアン・ギラン(ディープ・パープル)に笑ったり、ザ・フーの“CSIメドレー”に狂喜したり、ロジャー・ウォータース(再結成されたピンク・フロイド)が“Wish you were here”のイントロでシド・バレットに語りかける姿に涙ぐんだりしながら見ていたのだが…

驚くべきはマドンナだった
彼女をはじめ、20年前にも出演したミュージシャンは何組かいたのだが、ほとんどがそのときにもプレイした“過去の名曲”を演奏した
一見、観客を喜ばせようとする“サービス”ともとれるが、実際には、この20年前ほど音楽シーンの最前線にいない…ハッキリ言ってしまえば、それほどの“ヒット”がない、ということの証明だろう
しかしマドンナは“Like a virgin”はもちろん、こうしたイベントの定番である”Holiday”も“material girl”も演らなかった。それでいてパフォーマンスの完成度も、観客の乗りもピカイチであった

この“プロ根性”とでも言う姿を見て思い出すのは、87年と90年に行われた日本での彼女のライブだ
87年の後楽園では、“ダンスしない”客を煽っても『イエー!』しか言わないことにイラ立ち、ますますムキになってこれでもかと最高のパフォーマンスを見せ続け、最後にはかつての球場全体を巨大な“ディスコ”(懐)にしてみせた
90年の横浜では、ショーとしてさらに進化したステージを見せつけた
大掛かりなセット、寸分の狂いもないダンス、ますます凝った演出…すべてが最高のレベルで演じられていたが、思わぬ誤算が彼女を襲う

3年前に比べれば格段にノリの良くなった日本のオーディエンスも、英語でのコミュニケーションは相変わらずできない
そんな事情を知った上で、あえて英語でMCを行い、“パーフェクト”なパフォーマンスをすることで観客を満足させようとしていた彼女だったが、曲の最中にステージの右端の花道にさしかかったときに“事件”は起きた
ダンスしている彼女の足下に何かが投げ込まれた
一瞬、本当にわずかな瞬間、彼女の顔に浮かぶ不安な表情

それは『花束』だった…

次の瞬間、これまで彼女の顔を覆っていた“完璧な作り笑顔”は消え、はじけるような輝いた表情に変わった
ダンスと英語が苦手で無表情だと思っていた日本人からの、思いもよらなかった文字通りの“サプライズ”
この後の彼女は、いたずらっぽく笑ったり、大げさにアクションしてみせたりして、心からショーを楽しんでいるように見えた
そして最後には、また会場全体をダンスホールに変身させた
ただ2年前と違うのは、多くの女性の観客がエンディングで感極まって涙を流していたことだった

ズバ抜けたプロ根性と確かなパフォーマンス…それでいて全世界中継のLive 8で“F○ckin’ London!”と客を煽るイカレっぷり

この日彼女を紹介したボブ・ゲルドフの言葉は決して大げさじゃない
Queen of Rock’n Roll, “MADONNA”!」



"taro's magazine" main site…http://www.tees.ne.jp/~ito-taro/