Paint It Black

taros_magazine2006-03-06

自分が小学生の頃、近所のアパートに”元死刑囚”が住んでいた
実際にはこれは大きな間違いで、正確には「殺人・放火で逮捕され、死刑を求刑されたが地裁で無罪判決が出され、そのまま無罪が確定した人」だったと後に知った
当時も”無罪になった人”だということは知っていたが、それでもやっぱり怖かったので、その人にも、そのアパートにも近づかないようにしていた
付近に住む人も、”避ける”というわけではないけど距離を置いているのが幼心にも見て取れた
最近になって、この人が罪に問われた事件に詳しい人からいろんな話をきくことができた
その人の話によると、彼はグレーで無罪になったのではなく、パーフェクトなシロとして無罪だったという
ほぼ完璧なアリバイがあったにもかかわらず逮捕され、さらに彼に結びつく証拠は一切発見されなかったこと、そして警察・検察の一部ですら「有罪にはできない」と感じながらも起訴、しかも死刑を求刑したらしいということなど…
当時も冤罪だという声は多く、いろんな人が熱心に支援活動をしたという
でも、無罪放免となってからも彼は近所からは孤立してしまっていた
”逮捕された”という事実が、裁判手続きを待たずに人々の脳裏に”有罪”判決を焼き付けるのか?
いや、”ロス疑惑”を思い出して欲しい
三浦和義氏は逮捕前にすでに”極悪人”だった(その逮捕容疑すら後に無罪判決が確定した)し、ライブドアの堀江元社長は難解な証券取引法や商法の解釈をあさってに追いやり、”モラルうんぬん”で逮捕前に人間失格の烙印を押されていた
結局、最終的には”いちばんオイシく見える段階”で、白く見えるか黒く見えるか、ということなんじゃないだろうか?
そしてその様子を見せるのがマスメディアである
彼らがカメラのレンズに濃いグレーのフィルター(…それは、被疑者のささいな近隣トラブルやストレス発散を『心の闇』として紹介したり…)をかぶせると、家庭のテレビには黒く見え、斜のかかったライト(…容疑者という言葉を”メンバー”に置き換えたり…)を当てれば白く見えてしまう
やがて”賞味期限”を過ぎれば、シロにもクロにも平等に感心は薄れていく。メディアからも世間からも…あの日カメラに映し出された姿の記憶だけを残して…
1審で無罪判決の出された豊川市の幼児連れ去り殺人事件は、検察側が控訴に踏み切った
事件発生時には被害者家族のファッションセンスや、車の趣味までが何かと話題になり、容疑者逮捕時にはその生活スタイルがヤリ玉に挙げられたこの事件…とうに賞味期限の切れたこのニュースに本当の白黒がついたとき、被告は、被害者家族は、どういった状況下にあるのだろうか